紙と皿のあいだ

本の感想とドールや猫の写真とか

『天気の子』

公開二日目かな。先週土曜の朝一に、睡眠不足と頭痛+ロキソニン2錠でフラつきながら見に行った、覚え書きです。
パンフレットやその他のインタビューなどの情報はまったく仕入れていないので、本当に映画の印象だけだし、もう映画自体の記憶もうっすらとしてきている。
一言でまとめると「『AIR』……」。
全体としてはとてもよかった。嫌いじゃない、しかし琴線に触れるような「好き」があるでもない。引っかかるというほどではないが気になることがいくつかある。
全体として上手くメジャーにまとめてるからかな。リアルさよりもポップさが大事。アニメだから。そんな明るさがある作品で、でもそれをしゃらくせえとも思わない。
そんな感じ。よかったです。



  • 主人公二人組があれだけセカイにいじめられても「クソみたいなセカイをぶちのめす」破壊衝動の発散という方向にいかず、極めて穏便なやり方で社会に向き合うあたりが時代性だなと感じた。
    • いや、結果的には東京=セカイは壊滅しているんだが、その崩壊の瞬間は描かず、やった二人は覚悟も贖罪も抱かないまま物語は終わったよね。という印象がぼんやり残った。
    • 雨が降っても雪が降っても誰も死なない。(死んでいるはずなのに)
      • 母親が死んだ理由はどうでもいいが、その痛みをヒロインが感じている様子が全然ない。ないわけはないんだが描写が薄い。ストレスフリーな映画。
  • 監督は「怒られる」自覚があるけど、キャラクタと(彼らに同調しているであろう)観客には「批判される覚悟」を突きつけず、ふんわかはっぴーな余韻しか残っていない。痛みがない。たぶん痛みは、そもそも求められていない。
  • ストレスフリーに特化している。そこもある意味では(広く間口を開くのは悪いことばかりではない)評価ポイントではあるが、「怒らせる」といった割りには喧嘩の売り方が軽い。
  • 引いた引き金の軽さ。インパクトがなかった。
    • 「彼らは誰からも(セカイを変えたことを)責められてはいない」責任を取ることはない。
      • 同じく世界を壊しちゃったエヴァQのシンジとはまっ反対で面白い。あっちはなぜかカヲルだけが自主的に責任引き受けて終わった。
  • 「人を傷つける」という覚悟。ATフィールドからしばらく、一部ゼロ年代では主題だったわけですが……。*1
  • ホダカは制圧してくるオトナに対して「仕方なく」銃を向けるけれど、それだって空へ向かって撃つだけだし、自分の頭に銃を向けて脅迫するようなやり方もしない。痛みがない……ではなく、殴られる痛さを知っているから避けているんだろうけど、銃を向けるけど撃つ覚悟は結局ない。最後までホダカは人を殺さない。
    • 崩壊世界でおばあちゃんの家が失われたことがわかるが、それでも「傷つけた」感覚は薄い。おばあちゃんの家、そもそも前のは隕石で無くなってるし、二台目だから思い入れ薄い感じがある。
    • さらに「この世界は元々狂っていた」という肯定すら得る。
      • 元々狂っていたセカイに主人公たちふたりが一石を投じたところで何も変化はしない=無力感。
        • →からの、「いや僕たちはセカイを変えたんだ」という自己肯定。主観の変異。
      • 悪意のある世界に助ける義務ないから俺らは知らねと悪意を返して、爽やかはっぴーなのすごい。露悪がない。ストレスフリー。
  • オトナが若者たち、主人公を殴り、ヒロインを搾取して、晴れ間を作るセカイ。
    • ヒロインは「みんなが笑ってくれるから」自分の身を削っていく。
      • これ突っ込んだら負けなんだけど、主人公がヒロインに身売りさせる構造がスカウトがやろうとしてるのと完全に同一なのどうなの。主人公はヒロインのギフトにライドしてるだけでは。
      • セカイ系だかそこらへんのジャンル? での「キャラクタの主体性」の話題は鬼門というイメージしかないので深くは考えたくないんだけど(そもそも「主体性」ってなに? 自分の思った通りに動いてくれないから不快なだけでは)、冒頭から主人公が本という閉じたメディアから思想を受け取り、広いネットの知恵袋から指針を求めているのはキャラクタの「主体性のなさ」を表していると読める。
        • ↑の文章のように決め打たず、含みを持たせるあやふやな形で描くのが「時代の気分」。だって違ってたら責任取らなきゃいけないし、それは嫌だし。メジャーであるためにはストレスフリーでないとダメ。飲み込みやすい形にする。
        • 「今どきの若者は主体性がない」という使い古されたフレーズ。「今どきの若い子はずっと雨ばかりでかわいそう」というフレーズ。
          • 言うまでもなく「雨ばかりで今の若い子はかわいそう」は斜陽する日本経済というか「いま、ここ」を指しているんだけど、それを最終的に肯定しちゃうの、めっっっっっちゃ時代の雰囲気と合致している。*2
    • 主人公は「ここ」に登場した瞬間から絆創膏を貼る。東京のすみっこに座っているだけでスカウトに蹴られて、刃向かうと殴られる。一時保護者には労働搾取される。
      • 主人公はおそらく日常的に暴力に身を晒されている少年で、冒頭から顔にいくつもの絆創膏を貼っている。
        • バイト面接が進んでいく、時間経過(あるいは自立への一歩)で絆創膏は剥がれる。
        • 有刺鉄線で頬に傷がつく。→これラストシーンでは消えてた?「物語の記憶」としてアニメの演出的には残したいポイントだと思うんだけど覚えがない。
      • スカウト、警察官、一時的な保護者、すべての大人が彼に対して暴力を振るう。
        • この類似からの推測として、故郷の加害者も保護者である可能性が高いのでは。学校でのイジメかもしれんけど。
      • 彼にとって元からセカイは優しくなくて、自分を傷つけてくるもの。
        • そこから逃げるためには自立しなくてはいけない。「子ども」の無力感。『天気の子』はあくまでも「子ども」の物語。
    • 拳銃という「暴力の手段」をゴミ箱から得る。オトナたちのセカイへの鍵。使えばそちら側へ移行できる。
  • 明確な暴力を振るうのは視聴者のヘイトを稼ぎまくった歌舞伎町のスカウトに対しての正当防衛でだけ。
    • 害意を向けられたらやり返さなくては(生きて)いけない。
      • その闇に堕ちかけた主人公を救ってくれたのがヒロイン。「暴力はいけないことだ」と意見して主人公を正道に戻す。(観客は主人公が人に暴力を振るわないことに安心する)
      • 主人公はヒロインの性的搾取をくい止める。相互に救い合っている。演出的にあんまり見えないけど良性の相互依存の関係。
    • 主人公がオープニングで豪雨を浴びるシーン。豪雨=ヒロインの晴れのパワーの裏側にあるもの=マイナスの暴力、あるいはヒロインの悲しみや怒り。主人公はそれらに同調している。唯一に近い暴力性快楽の発露のシーンだと思う。
      • そこから掬い上げるのが一時保護者のスガ。命の恩人である主人公のシャドウ*3
  • セカイの系(システム)
    • オトナ社会と天候とでふたつの系がある。
    • 社会からは「子どもなので」排除されている。(自立できない)
      • スガとナツミという先行者がいるが、単に年取ってるだけのオトナたちなので全然参考にならない……。
    • 天候とはヒロインしか繋がっていない。
      • 晴れ=いいかんじ、笑顔 雨=ダメっぽい、寒い
        • 水の魚=ナニアレ
        • なんかブヨブヨ空中に浮かんでる大量の水=????
      • ヒロインの感情とリンクしてるのか?というわけでもない?よくわからない。
        • なんか唐突に雪降る。
        • 晴れを作ることによってしわ寄せで異常気象が!これは気象兵器として利用可能!と国の謎の開発機関がヒロインを攫うわけでもなかった。
    • オトナ社会は天候の系を「認めていない」。験担ぎくらい。信じているのは主人公とヒロイン+凪だけ。
      • だからやっぱり夢かもしれない。
        • 「でも僕たちは確かにセカイの形を変えてしまったんだ」→オトナによらない、自立的な系の確立。自分の世界を信じるという「宣言」。めっちゃすがすがしくて感動した。
    • ふたりは何を変えたのか? 主人公は「僕たちが」と断言するけど、そこには全能感以外なにもない。青春セカイ系だからそれでいいし、それがすべてなんですけど……。
          • けどなぁ〜〜〜ってオトナとしてはなるよ。こんな雨ばかりで腐ったセカイを受け入れろって言っちゃう? 逆襲しろって言ってるつもりだろうけど、結局雨は止まないじゃん。セカイ自体は元のままだし。つら。
            • 作品自体が子どもに向けてるメッセージっぽく感じられるので、全力だなぁと思う。
    • セカイはヒロインを救わない。
      • 「えいえん」でも呪いでも救いでもなんでもなくて、ただの系。仕様です。ヒロインは祈ってる、でも祈ってるだけでセカイ変わるの? なんで? 祈ってるだけじゃマジなんにもならない。「祈る」コマンドが大事なのではなく、ヒロインが身を切っていることだけが事実。
      • 女性性(小さき者ども)にシビアなところがあってこそのセカイ系って思い込みがある。
      • 主人公が犠牲になって格好良くヒロイン(もちろん女性とは限らない)を救っちゃうと、それはヒロイックな「ヒーロー(もちろん男性とは限らない)のための物語」として昇華されてしまい、セカイ系特有の「やるせなさ」がなくなっちゃう気がするんですよね。だからヒロインには業を負ってもらわないと…………………………。
        • セカイ系はエゴイズム全面で同時にヒロイズムに酔っているものだという偏見がある。
        • まあ、映像美と RADWIMPS の歌で圧倒的映画体験がお約束されているので、なんとなくハッピーエンドで別にいいんですわ。







































小説 天気の子 (角川文庫)

小説 天気の子 (角川文庫)

*1:ファフナーを見ろ。

*2:今だけではなく、いつの時代の青春だってそう。若者には「いま」しかない。そうであるべき。

*3:って言い方も懐かしい。