紙と皿のあいだ

本の感想とドールや猫の写真とか

『天気の子』

公開二日目かな。先週土曜の朝一に、睡眠不足と頭痛+ロキソニン2錠でフラつきながら見に行った、覚え書きです。
パンフレットやその他のインタビューなどの情報はまったく仕入れていないので、本当に映画の印象だけだし、もう映画自体の記憶もうっすらとしてきている。
一言でまとめると「『AIR』……」。
全体としてはとてもよかった。嫌いじゃない、しかし琴線に触れるような「好き」があるでもない。引っかかるというほどではないが気になることがいくつかある。
全体として上手くメジャーにまとめてるからかな。リアルさよりもポップさが大事。アニメだから。そんな明るさがある作品で、でもそれをしゃらくせえとも思わない。
そんな感じ。よかったです。


https://twitter.com/kamanobe/status/1152399394127302656:embed#
『天気の子』純度100%の新海誠だった。お前本っ当にブレないな!感動したわ。

  • 主人公二人組があれだけセカイにいじめられても「クソみたいなセカイをぶちのめす」破壊衝動の発散という方向にいかず、極めて穏便なやり方で社会に向き合うあたりが時代性だなと感じた。
    • いや、結果的には東京=セカイは壊滅しているんだが、その崩壊の瞬間は描かず、やった二人は覚悟も贖罪も抱かないまま物語は終わったよね。という印象がぼんやり残った。
    • 雨が降っても雪が降っても誰も死なない。(死んでいるはずなのに)
      • 母親が死んだ理由はどうでもいいが、その痛みをヒロインが感じている様子が全然ない。ないわけはないんだが描写が薄い。ストレスフリーな映画。
  • 監督は「怒られる」自覚があるけど、キャラクタと(彼らに同調しているであろう)観客には「批判される覚悟」を突きつけず、ふんわかはっぴーな余韻しか残っていない。痛みがない。たぶん痛みは、そもそも求められていない。
  • ストレスフリーに特化している。そこもある意味では(広く間口を開くのは悪いことばかりではない)評価ポイントではあるが、「怒らせる」といった割りには喧嘩の売り方が軽い。
  • 引いた引き金の軽さ。インパクトがなかった。
    • 「彼らは誰からも(セカイを変えたことを)責められてはいない」責任を取ることはない。
      • 同じく世界を壊しちゃったエヴァQのシンジとはまっ反対で面白い。あっちはなぜかカヲルだけが自主的に責任引き受けて終わった。
  • 「人を傷つける」という覚悟。ATフィールドからしばらく、一部ゼロ年代では主題だったわけですが……。*1
  • ホダカは制圧してくるオトナに対して「仕方なく」銃を向けるけれど、それだって空へ向かって撃つだけだし、自分の頭に銃を向けて脅迫するようなやり方もしない。痛みがない……ではなく、殴られる痛さを知っているから避けているんだろうけど、銃を向けるけど撃つ覚悟は結局ない。最後までホダカは人を殺さない。
    • 崩壊世界でおばあちゃんの家が失われたことがわかるが、それでも「傷つけた」感覚は薄い。おばあちゃんの家、そもそも前のは隕石で無くなってるし、二台目だから思い入れ薄い感じがある。
    • さらに「この世界は元々狂っていた」という肯定すら得る。
      • 元々狂っていたセカイに主人公たちふたりが一石を投じたところで何も変化はしない=無力感。
        • →からの、「いや僕たちはセカイを変えたんだ」という自己肯定。主観の変異。
      • 悪意のある世界に助ける義務ないから俺らは知らねと悪意を返して、爽やかはっぴーなのすごい。露悪がない。ストレスフリー。
  • オトナが若者たち、主人公を殴り、ヒロインを搾取して、晴れ間を作るセカイ。
    • ヒロインは「みんなが笑ってくれるから」自分の身を削っていく。
      • これ突っ込んだら負けなんだけど、主人公がヒロインに身売りさせる構造がスカウトがやろうとしてるのと完全に同一なのどうなの。主人公はヒロインのギフトにライドしてるだけでは。
      • セカイ系だかそこらへんのジャンル? での「キャラクタの主体性」の話題は鬼門というイメージしかないので深くは考えたくないんだけど(そもそも「主体性」ってなに? 自分の思った通りに動いてくれないから不快なだけでは)、冒頭から主人公が本という閉じたメディアから思想を受け取り、広いネットの知恵袋から指針を求めているのはキャラクタの「主体性のなさ」を表していると読める。
        • ↑の文章のように決め打たず、含みを持たせるあやふやな形で描くのが「時代の気分」。だって違ってたら責任取らなきゃいけないし、それは嫌だし。メジャーであるためにはストレスフリーでないとダメ。飲み込みやすい形にする。
        • 「今どきの若者は主体性がない」という使い古されたフレーズ。「今どきの若い子はずっと雨ばかりでかわいそう」というフレーズ。
          • 言うまでもなく「雨ばかりで今の若い子はかわいそう」は斜陽する日本経済というか「いま、ここ」を指しているんだけど、それを最終的に肯定しちゃうの、めっっっっっちゃ時代の雰囲気と合致している。*2
    • 主人公は「ここ」に登場した瞬間から絆創膏を貼る。東京のすみっこに座っているだけでスカウトに蹴られて、刃向かうと殴られる。一時保護者には労働搾取される。
      • 主人公はおそらく日常的に暴力に身を晒されている少年で、冒頭から顔にいくつもの絆創膏を貼っている。
        • バイト面接が進んでいく、時間経過(あるいは自立への一歩)で絆創膏は剥がれる。
        • 有刺鉄線で頬に傷がつく。→これラストシーンでは消えてた?「物語の記憶」としてアニメの演出的には残したいポイントだと思うんだけど覚えがない。
      • スカウト、警察官、一時的な保護者、すべての大人が彼に対して暴力を振るう。
        • この類似からの推測として、故郷の加害者も保護者である可能性が高いのでは。学校でのイジメかもしれんけど。
      • 彼にとって元からセカイは優しくなくて、自分を傷つけてくるもの。
        • そこから逃げるためには自立しなくてはいけない。「子ども」の無力感。『天気の子』はあくまでも「子ども」の物語。
    • 拳銃という「暴力の手段」をゴミ箱から得る。オトナたちのセカイへの鍵。使えばそちら側へ移行できる。
  • 明確な暴力を振るうのは視聴者のヘイトを稼ぎまくった歌舞伎町のスカウトに対しての正当防衛でだけ。
    • 害意を向けられたらやり返さなくては(生きて)いけない。
      • その闇に堕ちかけた主人公を救ってくれたのがヒロイン。「暴力はいけないことだ」と意見して主人公を正道に戻す。(観客は主人公が人に暴力を振るわないことに安心する)
      • 主人公はヒロインの性的搾取をくい止める。相互に救い合っている。演出的にあんまり見えないけど良性の相互依存の関係。
    • 主人公がオープニングで豪雨を浴びるシーン。豪雨=ヒロインの晴れのパワーの裏側にあるもの=マイナスの暴力、あるいはヒロインの悲しみや怒り。主人公はそれらに同調している。唯一に近い暴力性快楽の発露のシーンだと思う。
      • そこから掬い上げるのが一時保護者のスガ。命の恩人である主人公のシャドウ*3
  • セカイの系(システム)
    • オトナ社会と天候とでふたつの系がある。
    • 社会からは「子どもなので」排除されている。(自立できない)
      • スガとナツミという先行者がいるが、単に年取ってるだけのオトナたちなので全然参考にならない……。
    • 天候とはヒロインしか繋がっていない。
      • 晴れ=いいかんじ、笑顔 雨=ダメっぽい、寒い
        • 水の魚=ナニアレ
        • なんかブヨブヨ空中に浮かんでる大量の水=????
      • ヒロインの感情とリンクしてるのか?というわけでもない?よくわからない。
        • なんか唐突に雪降る。
        • 晴れを作ることによってしわ寄せで異常気象が!これは気象兵器として利用可能!と国の謎の開発機関がヒロインを攫うわけでもなかった。
    • オトナ社会は天候の系を「認めていない」。験担ぎくらい。信じているのは主人公とヒロイン+凪だけ。
      • だからやっぱり夢かもしれない。
        • 「でも僕たちは確かにセカイの形を変えてしまったんだ」→オトナによらない、自立的な系の確立。自分の世界を信じるという「宣言」。めっちゃすがすがしくて感動した。
    • ふたりは何を変えたのか? 主人公は「僕たちが」と断言するけど、そこには全能感以外なにもない。青春セカイ系だからそれでいいし、それがすべてなんですけど……。
          • けどなぁ〜〜〜ってオトナとしてはなるよ。こんな雨ばかりで腐ったセカイを受け入れろって言っちゃう? 逆襲しろって言ってるつもりだろうけど、結局雨は止まないじゃん。セカイ自体は元のままだし。つら。
            • 作品自体が子どもに向けてるメッセージっぽく感じられるので、全力だなぁと思う。
    • セカイはヒロインを救わない。
      • 「えいえん」でも呪いでも救いでもなんでもなくて、ただの系。仕様です。ヒロインは祈ってる、でも祈ってるだけでセカイ変わるの? なんで? 祈ってるだけじゃマジなんにもならない。「祈る」コマンドが大事なのではなく、ヒロインが身を切っていることだけが事実。
      • 女性性(小さき者ども)にシビアなところがあってこそのセカイ系って思い込みがある。
      • 主人公が犠牲になって格好良くヒロイン(もちろん女性とは限らない)を救っちゃうと、それはヒロイックな「ヒーロー(もちろん男性とは限らない)のための物語」として昇華されてしまい、セカイ系特有の「やるせなさ」がなくなっちゃう気がするんですよね。だからヒロインには業を負ってもらわないと…………………………。
        • セカイ系はエゴイズム全面で同時にヒロイズムに酔っているものだという偏見がある。
        • まあ、映像美と RADWIMPS の歌で圧倒的映画体験がお約束されているので、なんとなくハッピーエンドで別にいいんですわ。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152400692230754305
もうすがすがしいまでの「新海誠」が帰ってきた!って感じでこちらから申し上げることは何もないです。小栗旬がいい仕事をしていた。ネコかわいい。ネコすごいかわいい。ネコほんとかわいい。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152401361582956544
主人公はボコられまくるけどあんまり怖がらないので、殴られてる男の子が見たいという歪んだ嗜好が目的としてはあんまり。逆ギレボーイズとしては…………あと5歩くらい欲しかった……

https://twitter.com/kamanobe/status/1152402004578144256
背景美術その他のアートワークに関してはもちろん語るべき部分はたくさんあるんだけど、『君の名は。』の後だとそこまでのインパクトは感じなかったかも。雨の丁寧さが良すぎて晴れのアッパー感がどうでもよくなってくる。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152402056314888192
伝承部分が雑すぎ。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152403499663028225
タイアップで登場する商品が多くてライセンス管理大変そう。ヒット作を出すってこういうことなのだな。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152403979864702976
ホダカくんが2歳年齢を重ねたシンジくんのように可愛い外見をしているので清々しい気分でラストを迎えたが、このブースト効果がなかったら若干の苛つきを感じた可能性がある。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152404299982372864
瀧くんの6倍くらいかわいい。体型とか足首とか。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152405513323237377
ショタに関しては細田守の気持ち悪い偏愛を超えるものでは全くなかったので、その点に関しては細田に軍配が上がる。新海誠ってこう、視界がキャラクタにズームインしていくような感覚全然湧かないんだよね。(※『天気の子』のおっぱいは除く)

https://twitter.com/kamanobe/status/1153883295492349954
ショタコンだけど今どきオカッパ+半ズボンのショタをこの設定のキャラと物語に乗せるの、リーゼントの警察官を同じくらい「なんで…」って思います。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153885007762485248
そういえばヒナちゃんのパンチラ一切なかったな。当たり前だけどそんなもん本当にいらないんだな……。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152404405007728640
監督が「ネタバレやめてね」って言うもんだから……

https://twitter.com/kamanobe/status/1153879000583794689
『天気の子』主人公が読んでいるのが村上春樹の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で、野崎孝の『ライ麦畑でつかまえて』じゃないのはよかったと思います。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153879113733533696
これはこの子たちの話であって、お前の話じゃないよと前置きされている。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152406049321676800
君の名は。』は「アニメが好きならとりあえず見ておけ」だったが、『天気の子』は「新海誠が好きじゃなかったら見なくてもいい」って感じです。話が面白くない。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152406337273229312
もちろん個人の感想です。情報密度が高い映画なので面白ポイントは山のようにあるから、どんなフィルターを持っているかによって感じるものも違うと思う。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152407491046563840
社会派をセカイ系の混ぜ込み方が中途半端じゃない?ポップさを捨てても描きこみの密度を上げるべき部分はそこ以外にもあったんじゃない?

https://twitter.com/kamanobe/status/1152408590465921024
人間部分に関しては実写に負けちゃってるというか。あんなに丁寧な映画なのにキャラクタ部分だけ悪い意味でアニメっぽいんだよな。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152409143774289920
ただ、本当に時代の映画ですよ。暗喩というより直喩。でも本当にそれでいいのか?セカイ系ならそれでいいと思います!でもそれで本当にいいのか?!選挙に行け!!!!!!!!!!!

https://twitter.com/kamanobe/status/1152409218294542336
だから18才未満なんだろうな。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153881908729671680
『天気の子』に個人的にテンションぜんぜん上がらないの、結局は破壊のスペクタクルがないってだけなんだよな。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152410558424969216
あのオッサンの主張を慎重に避けて通らなければいけない必要はない!オッサンが思春期の少年少女の味方である必要はない!

https://twitter.com/kamanobe/status/1152411098533941248
「無情さ」「無力感」がそこまで強烈じゃないってのが抵抗ポイントのひとつなのかな。最後の最後には抗うけど、それは抵抗不可能な超然的なにかではなく、可視化されてて理解可能なシステムでしかない。セカイそのものには抵抗せずに受け入れてるじゃん。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152579215104937985
『天気の子』たぶんメインヒロインよりも脚本家別のサブヒロインのルートの方がツボに入っちゃったりするやつだわ。俺の本命は別にいる気がする。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153562202256732160
『天気の子』の summer 編は実際、映画館を出た瞬間にはみんなもうプレイした記憶持ってるでしょ???????少なくとも俺はそうでした。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153563074294513664
この「凪くんルート」は『天気の子』じゃなく、2でもファンディスクでもない、同ライターの別作品に成長して長髪になった凪くんが重要な役で登場してくるルートことだから。だから「凪先輩」ではないんですよ。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153577035563855873
でも解凍したところで面白いの?というのは疑問。エロゲネタで盛り上がっている中年たちは楽しそうでいいのだが、解凍技術を持たない十代の人たちの素の感想の方が全然が気になる。(といって特にサーチもしないのだった)

https://twitter.com/kamanobe/status/1153577808624381953
エロゲ年代にとってはこの心象風景は過去のものだけど若者にとっては「今ここ」こそが雨続きの日本でしょ。それを完全に受け入れているっていう受容一辺倒な描かれ方をしていいのか。殴られ続けてて、でも彼女のために(という男性主観もセカイ系の読み解きも乱暴だよね〜)銃をとって、で「も。」

https://twitter.com/kamanobe/status/1153578145905172482
泣きながら少年を殴りつけるオトナ……「オトナ」じゃん……

https://twitter.com/kamanobe/status/1153599250460114945
AIR の晴子のことを思い出して悲しくなっていた。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153664898687127553
『天気の子』これが監督の2作目で自分がもう少し若かったら(作品のダメさに対して)もう少し真面目に怒ってた可能性もあるけど、この内容とストーリーと要素と構成とを信念と哲学と野心を持ってやっていることが完全にわかっているので、まあ別に… https://t.co/PDTH0bbzDf

https://twitter.com/kamanobe/status/1152580726568603648
一周回って「時代とのリンク」と「物語の普遍性」について大変真摯に向かい合っているように見えきたので初志貫徹って大事ですね。

https://twitter.com/kamanobe/status/1152582402339794945
イリヤが大好きだけどクソだと思っているしイリヤを信仰しているオタクが大嫌いなタイプのオタクなので……

https://twitter.com/kamanobe/status/1152757832732643328
『天気の子』新海誠が別に好きではないのでこの作品も好きではないのだが、それはそれとして作品内容について語りたくはある。オタクの心の語りたガールを刺激してくる。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153272545736454145
『天気の子』オタクたちが作品の中に自分の好きなものを好き勝ってに見つけていて実に「砂場」。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153667287422889984
『さらざんまい』の悠との対比を考えてしまうよな。結局、彼岸には行かないんだよ。

https://twitter.com/kamanobe/status/1153667523688091648
「大丈夫」で思い出すの『レイアース』(とガッチャマンクラウズのはじめちゃん)なんですが……

https://twitter.com/kamanobe/status/1153617081197219840
私が願うのは『天気の子』を見たイケてないオタクの少年少女がムーのTシャツを一張羅としてコミケとかに着てきてくれるといいなということです。


*1:ファフナーを見ろ。

*2:今だけではなく、いつの時代の青春だってそう。若者には「いま」しかない。そうであるべき。

*3:って言い方も懐かしい。