福音の少年
- 作者: 加地尚武,中臣亮
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全巻読破!(していた)
感想をしたためようかと思っていたけれど、読み終わってからだいぶ間が空いてしまって、直後の感覚はあらかた忘れた。
作品概要については福音の少年 - 紙と皿のあいだ参照。
とりあえずの感想としては、Amazonレビューその他のネット上の評価の低さは不当ではないか。
確かに作りはとても荒いし、ラストの締め方など特に酷い。小説の書き手としては相当に下手な部類ではある。
最終刊まで読み通した結果、この作者の一番の欠点はエピソードの描写ができないことだと認識した。
そのシーンに何があって何が起きているかの「現実に起きていること」はハッキリとしているんだけれど「描かれていないこと」を書くことができない。いわゆる行間の含みが全くない。
その点については作者自身もある程度は自覚していて「『読者が読みたいのは設定じゃない』と言われたことがある」とあとがきにこぼしているんだけども、どうもその助言をはき違えている節がある。
設定はいくらでも書き込んでいいのだ。なぜならそれがこの作品の一番の長所だから、作品世界そのものが作者の意識の具現化でありキャラクターはその一部に過ぎないというのが、この作品の(またネタ元でもあるエヴァという作品の)特質だ。
肝心なのは、それを肉付けするべく盛って盛って盛りたてまくることだった。なのに、その盛り設定の接着剤にあたる文章力的や引き立てる展開が圧倒的に足りない。それが、あの終わり方でもって「肩すかしすぎる」と言われてしまう所以だと思う。
あらすじとしては、それなりにうまいことまとまってるんですよ。それでも物足りないと思わせてしまうのは、端的にエピソード不足と情緒のなさの二言に尽きて、その点は勿体なかった。
ただ、そんなに小説に必要なものが欠けまくっているにもかかわらず、この作品は確かにそれなりに面白い。何が面白いって設定が「楽しい」。
自分が面白い!と思ったものを躊躇なく持ってくる「ぼくの考えた最強のおはなし」という素直さと、それを捻くらない作者の筆は、どこまでもジュブナイル的な快楽に満ちていて、なんだかとっても「楽しい」のだ。
唐変木な父親、包容力のある母親、瓶の中でくるくるまわるホムンクルスの女の子、裸で空を飛ぶあまのじゃくな美少女同居人。
地平線の彼方まで続く巨大な本棚。そこに住む過去から未来に続く著者の魂。
並行世界に住むクリーチャーと、その神格。源地球の神話。
箱の中をのぞくとその中に違う世界があるんだよ、と微笑む少年のような無邪気さ。
エヴァンゲリオンという作品の再構成して新しく産み落とされた箱庭を、作者と一緒に無邪気に楽しむ、このパロディの肝なのでは。
もちろん元ネタから分離して読むことも可能なのだけれど、あまたのパロネタと一緒に「そうくるかー」とクスクス笑うのが個人的には一番楽しい。
しかしモブキャラの扱いだけは本当にもったいないと思う。特にあのデブは上手くまわしてライバルキャラにまで育て上げるべきだったのでは……。
まあ、間違っても名作ではないんだけれど、3巻までのテンションはなかなかです。
ともかく家族描写がよい。というかゲンドウが最高すぎてラブいですね。あいつが主役でいいよ。