紙と皿のあいだ

本の感想とドールや猫の写真とか

残暑

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もう暑くすらない。



最近は、仕事中のながらアニメとして流している『おにいさまへ…』が大変アツいです。

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ガンバの冒険』『あしたのジョー』などを手がけた出崎統監督の90年代のアニメ作品。
当時からすでに時代錯誤感の紛々とした作風だったんでしたが、あらためて見直すとその迫力に圧倒されるものがあります。
メインストーリーは伝統ある女子校の階級闘争の物語。ふわふわしたところは最初期の主人公の頭の中だけで、思春期の感情の苛烈さ潔癖さが前面に押し出された、ドロドロの人間ドラマが好きな人にはたまらないアニメです。

タイトルの「おにいさま」は主人公が高校受験時に世話になった塾講師で、今は文通相手。
主人公は彼を兄と慕い、本編はすべて「おにさまへ……」で始まるモノローグとともに「おにいさま」に向けて綴られるという構造になっています。もちろん「とても伝えることはできません」「今日のことは一生、私の胸の中に秘めていくつもりです」という非公開のパターンもあります。乙女だからね。
そしてこの「おにいさま」が実は父の前妻の息子であったりと、学園外にも複雑に絡まり合ったドラマがあるのです。*1
学校と家庭がすべてであるという少女の世界観を、巧みに織り込む脚本がすばらしい。


溢れるる熱情のままにマンガ版を購入してしまい1巻だけ読んだのですが、感じたのは「マンガ版はキャラクタが魅力的で、それで7割出来ている」ということ。
対するアニメ版は演出がともかく濃厚なのです。
薄い文庫版2冊分の中編作を一年放映のアニメに引き延ばしているため、オリジナルエピソードで水増しされているんですが、どれも骨子を支えるに不足ない肉付けとして機能しておりアニメはアニメとして独自の風格を得るに至っています。単純に男っぽい趣がある。

アニメ版だとサン・ジュスト*2が一番好きなんですが、マンガ版だと全然惹かれないというのは声優の島本須美の力によるものなのだろうな……。
島本さんの声がすっげーいいんです。
原作だと「ハスキーボイス」だと強調されているけれど、島本さんの演技はそれほどハスキーでもない。しかしながら、男らしすぎない柔らかさとしとやかな強さを持った声の色っぽさときたら、端的に申し上げて最高ですね。マイ・ベスト・島本須美かもしれん。

マリ子さんはマンガ版の方がかわいらしさ重視なかんじで可愛いですね。アニメ版もかわいいけど!

主人公はアニメ版だと完全に空気で激しくどうでもいいキャラと化してるんですが、原作だと主役の役割をしっかり果たしていて安心しました。


おにいさまへ… 1 (中公文庫 コミック版 い 1-43)

おにいさまへ… 1 (中公文庫 コミック版 い 1-43)

おにいさまへ… (2) (中公文庫―コミック版)

おにいさまへ… (2) (中公文庫―コミック版)

*1:この程度は出オチの一つに過ぎず、ネタバレにも及ばないという人間関係の坩堝です。

*2:あだ名。オスカルをマイルドにより男っぽくアレンジした感じの男装の麗人